経営者が安定して会社を経営するための「議決権」の割合と取得の方法

経営

中小企業の跡継ぎ経営者など、事業承継を行った直後の経営者が安定した経営を目指すためには、議決権を自分に集中させて「経営権」「支配権」を確立することが近道です。

議決権の割合によって会社運営への影響力が異なるため、最低でも50%超、できれば67%超の議決権を得るように準備を進めましょう。

本記事では議決権、経営権、支配権の定義や、獲得した議決権の割合による株主の権利の違い、議決権を集約させる際の注意点などをまとめて解説します。

株主に与えられる権利「議決権」とは

株式会社は上場・非上場問わず、法的には「株主の持ち物」です。

株主は株式を保有することで以下の3つの権利を得ることができます。

  1. 利益分配(配当)を受ける権利
  2. 株主総会に参加して議決権を行使する権利
  3. 会社が清算された時に残った財産をもらい受ける権利

このうち、「議決権」は株主総会に参加し、議案への賛成・反対の意思表示を行う権利のことです。

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経営者が知っておくべき「経営権」

安定した経営を行うには、株式に付与された「議決権」の割合で変化する株主の権利への理解を深めておきましょう。

議決権の割合で経営権が判断される

会社の意思決定は多数決が基本です。投票する権利があるのは株主で、出資割合に応じた議決権を持ちます。

議決権を保有している割合に応じて株主として行使できる権利は異なり、保有数が増えるごとに会社に対して影響力のある判断ができるようになります

経営者が議決権をどれだけ確保するかが、会社運営上は重要になります。議決権の数が一定以上を超えることで「経営権」「支配権」と呼ばれる状態を確立できます。

ただ、経営権という名前の権利が実在するわけではありません。あくまで株式の保有割合で経営権を有するかが決まります。

支配権とは?経営権との違いを解説

支配権とは「議決権の3分の2を保有する状態」のことです。

3分の2以上の株式を単独で保有することで「特別決議」を単独で可決できるようになります。特別決議の内容は後述しますが、たとえば「定款の変更」によって普通決議の定足数を引き下げることも可能です。

役員の選任や解任の自由度が高まるなど、定款を有利に変更できるようになるでしょう。

意思決定が及ぼす会社への影響が大きいことから、3分の2以上の議決権を単独保有する状態を「会社の支配権を持つ」と呼ぶこともあります。

持ち株比率と株主の権限

株式会社にとって、株主総会は会社の意思決定を行う重要な機会です。議決に関わる株主は重要なステークホルダーであり、彼らの持ち株比率は意思決定の重要な要素になります、

企業活動を円滑に行うために、「どの程度の持株比率を保有していれば、何ができるか」を理解しておきましょう。

持ち株比率1%超

持株比率が1%超になると、株主総会での議案提出権が認められます。
問題提起のきっかけになる可能性のある最低限の比率です。

持ち株比率3%超

持株比率が3%超ある株主には、「株主総会招集の請求権」「会社の帳簿閲覧の請求権」などが与えられます。

そのほか業務の執行を検査する検査役の選任を請求することも可能です。

持ち株比率33.3%超

持株比率が33.3%を超える株主には、特別決議を単独で阻止する権利が付与されます。

経営者の側から見れば、持株比率33.3%超を保有する外部株主の意向には細心の注意が必要です。

持ち株比率50%超

持株比率が50%を超える株主には、株主総会の普通決議を単独で可決する権限が認められています。

株主総会は原則多数決によって意思決定が行われるため、過半数以上を保有している場合はほとんどの意思決定を行えることになります。

持ち株比率66.6%超

持株比率が3分の2を超える株主には、株主総会における特別決議を単独で可決させる権利が認められます。

特別決議では定款変更や取締役の選任・解任、事業譲渡や会社の合併・解散といったように、会社の将来を決定づける重要な事項を決定します。

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株主総会の決議が成立する基準

株主総会の決議が成立する要件、決議事項などを解説します。

普通決議

普通決議とは、発行済株式総数の過半数を保有する株主が出席し、その議決権の過半数の賛成が必要となる決議のことです。

決算の承認、取締役や監査役の選任、株式の配当などが相当します。

成立要件 議決権の過半数
(定款で排除できる)
決議要件 出席者の議決権の過半数
決議事項の例 決算の承認、取締役・監査役の選任、取締役・監査役の報酬、株式の配当など

特別決議

特別決議は、発行済株式総数の過半数を保有する株主が出席したうえで、議決権の3分の2以上の賛成が必要となる決議のことです。

特別決議の内容としては定款の変更、減資、会社の解散・合併契約の承認などが含まれます。

成立要件 出席者の議決権の過半数
決議要件 出席者の議決権の2/3 以上
決議事項の例 定款の変更、減資、会社の解散・合併契約の承認 など

特殊決議

特殊決議は、議決権を行使できる株主の半数以上であって、かつ当該株主の議決権の2/3以上の賛成を必要とする決議のことです。

非公開株式会社が株主ごとに異なる権利内容を定める場合などで該当します。

成立要件 規定なし
決議要件 議決権を行使可能な株主の半数以上かつ、議決権行使が可能な株主の議決権の3分の2以上
決議事項の例 非公開株式会社が株主ごとに異なる権利内容を定める場合

株主総会で議決権が争われた例

議決権は会社の経営に必須の要素であり、過去には株式総会で議決権が争われたり裁判になったりした例もあります。

実際に株主総会で議決権争いが起こった例として、以下の3つを紹介します。

関西スーパー

関西では馴染み深い食品スーパー「関西スーパー」が筆頭株主であるエイチ・ツー・オーリテイリング(以下、H2O)と経営統合を進めたところ、第2位株主の「オーケー」が割って入る形でTOBを行うことを発表したことで争奪戦が勃発しました。

関西スーパーの臨時株主総会ではH2Oとの統合案が賛成多数で可決されたものの、オーケー側は「臨時株主総会での議決権の扱いに疑義がある」として、H2Oとの統合案の差し止め仮処分を神戸地方裁判所(神戸地裁)に申請しました。

最終的に大阪高裁は関西スーパーの主張を認め、神戸地裁の仮処分決定の取り消しを行っています。

フューチャーベンチャーキャピタル

フューチャーベンチャーキャピタル(以下、FVC)の経営陣と「物言う株主(アクティビスト)」の対立が話題になりました。実際に物言う株主によって取締役7人全員の退陣が要求され、FVCの筆頭株主がアクティビスト側に付くことになりました。

その後の定時株主総会で、個人投資家の金武偉氏が提案していた取締役の交代が可決されています。

金氏を含む取締役候補5人が選任された一方、会社側が提案した取締役候補は全員否決という結果になりました。

オウケイウェイヴ

株主の請求に応じて開かれたオウケイウェイヴの臨時株主総会で、福田道夫元社長を含む経営陣が解任されました。

オウケイウェイヴは事業売却で得た利益の一部を不適切な会社(後に破産)に過度に投資し、50億円もの取立不能が発生しました。

また、子会社のコーポレートベンチャーキャピタルが買収した会社でも損失を出しました。投資やM&Aの意思決定プロセスが適切に行われていたのかといった点が委任状争奪戦での争点となりました。

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経営権の安定のために経営者が行うべきこと

安定した企業運営には、経営権の取得が欠かせません。ここでは経営権の取得のために株式を取得する方法を解説します。

合意による株式の取得

株主と話し合って株式を買い取る、または譲り受けることで議決権を取得する方法です。
取得する側と譲渡する側と合意した資金を持っていることが条件になります。

売渡請求権の行使

相続その他の一般承継により当該株式会社の譲渡制限株式を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求できる旨を定款で定めることができます。

ただし、売渡請求権を行使するためには「相続があったことを知った日から1年以内の株主総会で」「特別決議で売渡しの請求を行う」という条件があります。

経営権の安定のための注意点

安定して経営するには経営権の確保だけでなく、株主との関係性が重要です。経営安定に必要な注意点を紹介します。

株主との意見交換を欠かさない

事業承継で会社を受け継いだ経営者が経営権を円滑に取得するなら、株主との緊密なコミュニケーションや意見交換が欠かせません

株主が3%以上の議決権を保有している株主は「帳簿閲覧の権利」を有しており、敵対を避ける必要があります。

非協力的な株主がいる場合は状況を把握する

ステークホルダーのなかに、会社運営に非協力的な株主がいる場合もあります。その際は状況の把握が必須で、「保有する株数」「株式の取得経緯」「年齢・家族構成」など、様々な角度から個別に対応を決定します。

株主状況を把握するなら、株式会社ウィルズ「IR-navi」のようなツールの活用もおすすめです。IR-naviには株主状況を把握する機能があり、株主との関係構築の一助になるでしょう。

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経営権の確保には一定以上の議決権を確保すること

1つの株式には1つの議決権が付与されており、安定した会社経営のためには代表者が最低でも過半数の議決権を保有しておくことが望ましいと言えます。単独で特別決議を可決するためにも、67%超の保有が理想的でしょう。

ただ、経営者に議決権を集中するにあたり、筆頭株主をはじめとしたステークホルダーと対立する事例も過去には起きています。

安定経営のためには、IR-naviのように株式状況を把握できるサービスを利用し、有力な株主との対話やコミュニケーションを欠かさないようにすることも一つです。

もしご興味があれば、以下からサービス詳細をご確認ください。

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