自己株式に議決権がない理由は?取得するメリットや取り扱いも解説

経営

自己株式とは自社で保有している自社株のことを指します。普通の株式と異なり、この自己株式には議決権がありません。

それでは、なぜ企業はわざわざ自己株式を取得するのでしょうか?

本記事では自己株式とはなにか、なぜ自己株式には議決権がないのか、自己株式を取得するメリット、自己株式を巡る現況や議決権についても解説します。「自己株式に議決権がない理由を知りたい」「議決権で何ができるのか知りたい」という方はぜひ参考にしてみてください。

企業と株主をつなぐ『IR-navi』はこちら

自己株式とは

自己株式とは企業が発行した株のうち、市場などを通じて株主から買い戻し、保有している自社の株式のことを言います。通常の株とは違い、自己株式には株主総会において投票を行う権利『議決権』は与えられていません。(配当などを受け取れる権利『自益権』は認められています。)

市場に流通しない株という意味で「金庫株」と呼ばれることもあります。

会社の自己株式取得は旧商法で規制されていましたが、2001年の商法改正で無制限・無期限の保有が認められるようになり、現在では原則自由化されています

自己株式にはなぜ議決権がないのか

では、なぜ自己株式には議決権がないのでしょうか?

なぜなら、会社の保有する自己株式に議決権を認めてしまうと、株主総会において株式を発行する企業自身が議決権を保有している状態になってしまいます

そうすると自ら保有する議決権を行使して、株主の意向に関係なく、経営陣や会社にとってのみ有利な議案を決議することも可能になり、株主総会の意味がなくなってしまいます。

一般の株主にとって不利益となる会社運営を会社の独断で行わせないため、自己株式には議決権が認められていないのです。

会社法308条では議決権について以下の通り定めています。

<会社法308条>
1 株主(株式会社がその総株主の議決権の四分の一以上を有することその他の事由を通じて株式会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして法務省令で定める株主を除く。)は、株主総会において、その有する株式一株につき一個の議決権を有する。ただし、単元株式数を定款で定めている場合には、一単元の株式につき一個の議決権を有する。

2 前項の規定にかかわらず、株式会社は、自己株式については、議決権を有しない。

自己株式を取得するメリット

現在では多くの上場企業で行われている自己株式の取得ですが、発行済の株式を買い戻すことになるため、取得には少なくない資金が必要です。

では、会社が資金を用意してまで自己株式を取得することには、どんなメリットがあるのでしょうか?

M&Aの対価として利用できる

自己株式取得のメリットの一つとして、M&A実行の際に必要となる金銭の代わりとして自己株式を利用できることが挙げられます。

M&Aで他社を買収するためには、その企業の株式を購入しなくてはいけません。そのため多額の資金を用意しておく必要がありますが、この株式購入資金の対価として自己株式を使うことができます。

資金不足でM&Aを断念していた企業も、自己株式を譲渡することで買収をスムーズに進められるようになりました。

株価の安定・上昇効果

自己株式の取得は、自社の株価を安定させたり上昇させたりする効果があります。

企業が自社株を取得すると、市場に流通する株式数が減ります。

市場での株式の供給量が少なくなると、相対的に需要が高まるため、それによって株価が上昇するといった現象が起こります。株価の上昇は株主からの評価にも繋がりますし、自社株買いを好材料として株主が増える効果もあり、これによって株価の安定も狙えるでしょう。

上場企業の中には「自社の株が不当に低く評価されている」として、自社株買いを試みる企業もあります。

敵対的買収を防げる

企業が自己株式を取得することで、市場に流通する株式の絶対数を減らし敵対的買収を防げるといった効果もあります。

具体的には、自己株式取得により自社の持ち株比率を増やし、敵対的買収者が企業買収に必要な株式を取得させないようにするといった方法です。

また、市場の株式流通量が減ることで株価が上昇し、株式購入に必要な資金が増えて買収の難易度が高まることも期待できるでしょう。

事業継承対策

主に非上場の中小企業で用いられるのがこの方法です。

会社の経営者が引退し、後継者が会社を継承する際には相続税や贈与税の納付が発生し、多額の資金が必要になる場合があります。現金が不足し納税が難しいという事態も起こりがちです。

そのため、事業継承で後継者が得た株式を会社に取得してもらい、その購入対価を納税資金に充てるという方法を取ります。

後継者は資金不足を解消でき、会社は自社の持ち株比率をアップさせ自己株式の分散を防ぐこともできるため、双方にメリットのあるやり方です。

株主管理コストを削減できる

自社で自己株式を保有し、株主を増やさないことで株主管理コストを削減する効果もあります。

株式が分散し株主が多くなればなるほど、管理コストは膨らみます。特に中小企業であれば、この経費は無視できないものでしょう。

また、株式が分散していることで経営に関する意思決定をスムーズに行えなくなるといったデメリットもあります。そのため株式の総数を減らし、株主を整理する目的で自己株取得を行う企業も多いのです。

企業と株主をつなぐ『IR-navi』はこちら

自己株式の取扱い

このパートでは、自己株の取り扱いについて、以下の3つに分けて紹介します。

  1. 取得
  2. 消却・消去
  3. 処分

取得

自己株式の取得とは、発行した企業自身が自己の株式を保有している株主から取得することを言います。

上場企業であれば市場を通して不特定多数の株主から購入する場合が多いですが、非上場企業の場合は特定の株主からの購入により自己株を取得します。

自己株取得によって株主構成は変化するため、どちらの方法を取る場合でも株主総会の決議が必要です。不特定多数の株主から購入する場合は普通決議、特定の株主から購入する場合は特別決議によって株主の賛同を得ましょう。

ただ、株主総会で決議されたとしても、保有株式を譲渡するかどうかは各株主の意思に委ねられますので、必ずしも企業が目的通りに自己株式取得を成功させられるかは分かりません

また、企業の価値が高まっていれば取得には多額の資金が必要となるため、綿密な収支計画を立てておかなければいけません。

消却・消去

自己株式の消却・消去とは、企業が自社で所有する自己株式を消滅させることを言います。

自己株式を消滅させると、その分発行済株式数が減少することになり、1株あたりの価値は上昇します。

また、割安な価格で株式を放出しないと言うメッセージも発信できるため、自己株式の消却・消去は株価を上昇させる効果もあります。自己株式の消却・消去には取締役会の決議が必要です。

処分

自己株式の処分とは、企業が自社で保有している自己株式を社外に放出し、売却することを言います。市場からのスムーズな資金調達を目的に行われる場合が多いです。

先述した自己株式の消却・消去と異なる点は発行済株式数が変化しないというところです。

ただ市場に流通する株式数が増えるため、1株当たりの価値が低下し株価が下落しやすくなるといったデメリットがあります。

企業と株主をつなぐ『IR-navi』はこちら

議決権とは

では、そもそも議決権とはどういった権利のことを言うのでしょうか?

議決権とは、株主総会で投票を行う権利のことです。株主は、議決権を使って企業の経営に関する重要事項を決定できる力を持っています。

株主は株主総会に提出された議案に対し、議決権を通じて賛否を投じることができます。票の数は株主1人につき1票ではなく、1単元株あたり1票です。注意したいのは、「1株」ではなく「1単元株」であることです。

1単元が100株なら、99株以下を保有する株主に議決権は付与されません。ほとんどの上場企業の株式は1単元=100株です。

保有割合に応じて行使できる権利

全体のうち、どのくらいの割合の議決権を保有しているかによって、株主総会で行使できる権利は異なります。

当然ですが、保有割合が大きいほど株主が行使できる権利は大きくなります。議決権の保有数しだいでは、企業の経営方針を単独または少数の株主が決定することも可能になるでしょう。

議決に必要な保有割合と、行使できる権利は以下の通りです。

  • 議決権割合3分の2以上・・・株主総会の特別決議を単独で成立可能
  • 議決権割合2分の1超過半数)・・・株主総会の普通決議を単独で成立可能
  • 議決権割合2分の1以上・・・株主総会の普通決議を単独で阻止することが可能
  • 議決権割合3分の1超・・・株主総会の特別決議を単独で阻止することが可能

普通決議とは

株主総会の普通決議とは、企業の基礎的な事項を決定するための決議です。

普通決議で議案を可決するためには、議決権の過半数を有する株主が出席し、さらに出席した株主の議決権総数のうち過半数の賛成が必要です。

以下に決議できる事項の一例を挙げます。

  • 自己株式の取得(特定の者からの取得する場合を除く)
  • 決算の承認
  • 取締役・会計監査人の選任・解任
  • 取締役・監査役の報酬の決定

特別決議とは

株主総会の特別決議とは、企業の根幹に関わる重要な事項を決定するための決議です。

可決には普通決議よりも厳格な基準をクリアしなくてはいけません。

普通決議で議案を可決するためには、議決権の過半数を有する株主が出席し、さらに出席した株主の議決権総数のうち3分の2以上の賛成が必要です。

以下に決議できる事項の一例を挙げます。

  • 自己株式の取得(特定の者からの自己株式を取得する場合)
  • 定款の変更
  • 株式の併合
  • 事業の全部の譲渡などの承認決議
  • 合併・会社分割・株式交換・株式移転の承認決議

特殊決議とは

株主総会の特殊決議とは、決議事項の重大性から圧倒的多数の賛成が要求される決議です。

議決案によって可決の基準は2つのパターンに分けられます。

  1. 議決権を行使できる株主の半数以上かつ当該株主の持つ議決権総数のうち3分の2以上の賛成
  2. 総株主の半数かつ、総株主の議決権の4分の3以上の賛成

普通決議や特別決議との大きな違いは「議決権を有する株主」でなく「議決権を行使できる株主」「総株主」といったように、株主の数が重要であるという点です。

それぞれ、決議できる事項は以下の通りとなっています

<1の場合>
・全部の株式に譲渡制限をかける定款変更をするとき
・吸収合併契約等の承認
・新設合併契約等の承認

<2の場合>
・(非公開会社において)株主ごとに異なる権利内容を設ける場合の定款変更をするとき

自己株式以外で議決権の例外となる株の種類

また、自己株式以外の株式でも以下に紹介するものについては自己株式と同様、議決権は認められていません。

<1.単元未満株式>
先述した通り、1単元が100株と定められた株式では保有数が99株の株主に議決権はありません。

<2.相互保有株式>
例えば、A社とB社が互いの株式をそれぞれ保有しているとします。A社はB社の株を議決権の4分の1以上、B社がA社の株を1%ほど保有している状況です。
このとき、A社→B社への議決権は行使できますが、B社→A社への議決権行使はできません。
これは、B社が議決権の圧倒的多数をA社に握られているため、A社の株主総会においてB社がA社の意向に沿った議決権の行使を行う恐れがあるためです。

<3.議決権制限種類株式>
もともと、議決権を一切付与されていない株式、または議決権を行使できる事項を制限されている株式です。議決権を一切付与されていない株式は「無議決権株式」とも呼びます。

<4.特別利害関係人>
決議内容に関して特別な利害関係を持つ株主の議決権が無効になるというものです。当然に無効となるのではなく、議決権を行使した結果として、著しく不当な決議内容となった場合に議決権が取消となります。

企業と株主をつなぐ『IR-navi』はこちら

法改正により自己株式取得が可能に

現在では法改正により、自己株式の取得は自由化されていますが、旧商法では原則禁止となっていました。

なぜなら自己株式を取得する行為は、多かれ少なかれ株価を変動させる作用があるため、株価操縦やインサイダー取引の恐れから、一般の株主に不利益をもたらすとされていたためです。

しかし、それまで禁じ手とされていた自己株式の取得は、経済界からの強い要望に応える形で2000年代より徐々に法改正が行われ規制が緩和されてきました。

自己株式の取得によって、より機動的に企業の合併やM&Aが進められるようになり、近年のM&A隆盛の追い風になったと言われています。

「新しい資本主義」で自社株買いに規制?

法改正により自由化された自己株式の取得ですが、ここにきて規制検討の兆しが見え始めています

2021年12月14日の衆院予算委員会で岸田首相から「自社株買い(自己株式の取得)に関するガイドラインを作成する可能性がある」と、自己株式取得の制限に関して言及がありました。

これを受けて、この日の日経平均株価は一時300円超の値下がりを記録する場面も見られました。

自己株式の取得を巡っては、それが赤字決算による株価の下落を緩和するために利用されたり、借金をして企業が自己株式の取得を行ったりするケースも散見されています。

また、「企業の利益を設備投資や賃上げ、債務返済に充てず自社株購入に充てることは従業員や債権者の軽視」といった指摘もあり、岸田首相はこうした事例を規制するためにガイドラインについて言及したと見られています。

『新しい資本主義』実現の観点から、「企業の事情にも配慮し画一的な規制はしない」とも答弁していますが、規制に関する今後の動向や発言については注視しておきたいところです。

自己株式があるときの議事録・株主リストの作成方法

このパートでは、自己株式があるときの株主総会議事録への記載方法と株主リストの作成方法を紹介します。

<議事録への記載方法の例>
・発行済株式総数 100株
(うち、自己株式30株)
・株主の総数  5名・・・自己株式保有会社も含めた株主の総数を記載
・議決権の総数 70個・・・自己株式の株数を除外し、行使可能な議決権数を記載
・議決権を有する株主総数 4名

<株主リストの作成方法>
・株主総会決議を要する場合・・・自己株式保有会社(議決権がない)は除いて記載し、議決権割合算定の分母からも除く。
・株主全員の同意が必要な場合・・・自己株式保有会社も含めて記載する。

企業と株主をつなぐ『IR-navi』はこちら

議決権付き株式を保有する株主とのコミュニケーションが重要

自己株式は、通常の株式と違い議決権が付与されていませんが、保有することで会社にとっては多くのメリットがあります。また、株価の値動きにも影響を与えるため、株主にとっても会社の自己株式取得は注目すべき動向です。

しかし、やはり企業の重要な経営方針を左右するのは議決権付きの株式を保有する株主たちです。企業は安定して事業運営を続けるためにも、議決権を持つ株主と良好な関係を築いておかなくてはいけません。

IR-naviは国内の機関投資家・外国人投資家・個人株主といった3つの投資主体を1つのシステムで管理できるツールです。リストによる投資家管理はもちろん、株主状況の把握やIRイベントの告知など、株主との円滑なコミュニケーションと動向管理を助ける機能が搭載されています。

「株主との信頼関係に不安がある」「重要な決議を控え、投資家の動向を押さえておきたい」と考えているなら、IR-naviの利用がおすすめです。興味のある方はぜひ、下記より詳細をご確認ください。

企業と株主をつなぐ『IR-navi』はこちら

タイトルとURLをコピーしました